GGA チャンピオンズロード "スレイヤー"
試合はマクレガーの敗北。
紙一重。
テクニック…経験の差で負けてしまっていた。
俺、ロマリオ・メディチはこの試合があの騒動の始まりだとこの時は思いもつかなかった。
「カハッ…!くそ……」
「デヴィッド・マクレガー…………」
倒れるマクレガーの耳元に囁く冴島。
そして歓声を背にリングを立ち去る…
ロッカールームにて無言で座るマクレガー
俺の予想では荒れ狂うと思っていたのでこの結果は意外であった。
「ま、まあよお〜デビュー戦で負けたくらいで何だよって話だよな!これからだよこれから!」
「…そうだな」
反撃されるのを少し想定していたので軽く返され拍子抜けた。
戦意を失ったのか?目を見るが彼の活力は枯れていないようだ。
「ところで、ドラゴンに最後なんて言われたんだ?」
「…ああ、それなんだが………」
「フハハハハハハ!!負けたな!!負けたな!マクレガー!!」
話を遮ってクソコーチが現れる。
やばい、今度こそ荒れるのでは…と思いマクレガーを見るが彼は無言で席を立ち、ロッカールームを出ていった
「戦意喪失と言うわけかな!?ざまあみろ!!」
マクレガー、一体何を言われたんだ
3日後、オフの日に俺はマクレガーに呼ばれる。
困ったな、オフに男と会う約束をする気はなかったんだが、おそらくあの話であろうことが予想できるため断る理由がなかった。
ファストフード店に呼ばれた。いつもの癖で予定時間より15分前に来てしまったがマクレガーは既に店内にいた。
どんだけ話したいんだよアイツ
マクレガーから話された内容は意外なものだった
「ケネディを止めろ……??」
「ああ、そして試合後、奴から携帯に話がしたいとメッセージが届いていた。明日同じここでアイツと会合する予定だ」
「はー?そんだけの話で俺を呼んだわけか?」
「メッセージでどうこう言うのは苦手だ」
「そうかいそうかい、しかしまあ、止めて欲しいってなんだろうな。止めるのはドラゴンの役目だろ」
「試合を見ていて分かったと思うがアイツは昨日のファイト…得意の膝蹴りを全くせず、グラウンド技が多かった」
「そうだな、まだ万全じゃないんだろうな…」
「もしかしてアイツの方が引退する気なんじゃねえの」
「言われてみれば確かに!!」
「そんなわけは無い」
後ろから聞こえてきた声に対して振り返ると…冴島が居た。
「ドラゴン!?待ち合わせは明日なんだろ!?」
「ああ、たまたま君らが話しているのが見えたので邪魔させてもらった」
「お?もしかしてフライングで意図を話してくれるわけか」
冴島は俺の隣に座ってきた。超せめえんだけど
「そうだ。丁度ロマリオくんにも聞いて欲しい話だったのでな……話をしよう。
単刀直入に言うとケネディが現在持ってるベルトは贋作だ。本物は私が持っている」
は??何言ってんのこの親父
「膝の調子が悪い事を悟った私はアイツに取られまいと偽のベルトを用意した」
「そんな馬鹿な話あるかよ」
「信じるか信じないかは君に任せる。ちなみに贋作はゴーストに作らせた」
あの野郎、そんなことも出来るのかよ
「え?でもよう、調印式までしてるし、いくら偽物でも権利はケネディにあるんじゃねえの?」
俺はドラゴンに疑問をぶつける。
嘘ではないと俺の直感が囁いている。
「調印式の書類まで全部偽造だ」
「なんてやつだ。そうまでして守りたいのかよ」
「ただ守りたいのではない。ケネディに渡るのが問題なんだ」
「どうしてだ?」
「俺はあいつの夢を聞いてしまった。アイツは自分の団体内での価値を上げ、とんでもない事をしようとしている」
単刀直入とかいうわりには勿体ぶるな
「君たちは団体に数多くの犯罪者が居ることは知ってるか?」
「うーん、やべえヤツがいるって言うのは知ってる、常々やべえなコイツって思うけど別に経歴が公開されてる訳でもねえしなあ」
そう言いながら俺はチラッとマクレガーを見るが奴はダンマリなままだ。
こいつもちょっと怪しい噂あるんだよな
「ケネディは経緯は不明だが、その前科含む犯罪者リストを入手した。正確には所属選手全員の過去が記載された物だが」
「へえ、で、それが?」
「ケネディは団体の浄化を狙っている。自分の価値を極限まで上げて…君たちが勘づいてるように、引退宣言をするつもりだ」
!!!ははん、読めたぜ。
「だが元より引退などするつもりは無い。奴は自分の引退と犯罪者を天秤に賭けさせるつもりなのだ。引退をやめて欲しければリリースをしろ……と」
「そんな上手くいくのかよ」
「そこでケネディがリストを入手した経緯だ。恐らく運営側に派閥がいるのだろう」
そりゃそうか
「考えてみろ、そんな得体の知れないヤツらが仕事を急に無くして…どうなるかを……」
まあ確かに、俺とか仕事無くしたら遊び呆けて潰れそうだわ。
「それに、俺は団体のほぼ全てのレスラーと手を合わせたが、元犯罪者ってだけで切り捨てることは出来ん。どいつもこいつもいいレスラーだ」
言われてみればファイト内容で危なそうなやつは確かに居ないな。
「で、止めろって言ったってどうすんだよ。偽物握らせててもアイツの人気価値は鰻登りだろ」
「俺にケネディを倒せってことだろ?」
ようやくマクレガーが口を開いた。
「そうだ。流石に今の状態で俺はケネディに勝てない。そこで俺のタッグパートナーだったミックが君らを褒めていた事を思い出し、目をつけた」
ミック。
かつてドラゴンのタッグパートナーだった男だが、年齢により団体が戦えないと判断。
現役を引退し、パフォーマンスセンターのコーチとなっていたが、マクレガーがあの不祥事を起こす1ヶ月ほど前に亡くなった。
それで今はあのクソコーチがいる訳だ。
「この偽物のベルトは時間稼ぎにしかならない。これがバレたら俺は即ケネディと戦わなければならないだろう。そして俺は負ける。団体最高峰の男に勝ってそれで完成だ」
自分で言うかよ。反論できないけど
「でもアイツは偽物と気づかないまま引退宣言をするんじゃねえのか?」
「それはない、アイツは俺とちゃんと最後まで戦うまでは引退しないとは約束している
俺の計画はこうだ。俺が完全復活してアイツと戦う。しかし必ず負けるだろう。そこでベルトが偽物であることを明かす。そして、王座を賭けてもう一度試合が起きる…!
つまり、このベルトは1度負けても引き伸ばせる延長策なのだよ。
そして、それまでの間に俺は君らを育てきる。
マクレガー、メディチ。君らはケネディが嫌いそうな人間の見本だ。
そんな君らに負けることでアイツの考えが変わるかもしれない。それに賭ける」
すっげえシンプルに感じつつも回りくどいやり方。
「幸い、俺は日頃の行いのおかげで毎興行1〜2試合マッチメイクできる権利を手に入れた。俺が指定したレスラーと……」
「ごちゃごちゃうっせえな。全部ぶっ飛ばせばよくねえか?全員倒せばケネディ以外で最強は俺になるだろ」
何言ってるんだコイツは
「全員ってどうすんだよ、遺恨が生まれてズルズル因縁つけられるのが基本だろ」
「そんな気が起きないように1回で戦意までぶっ潰せばいい、毎週戦えば1年もあれば終わるだろ。計算するとアイツがあと4回防衛するくらいの時期に終わる」
こいつはバカなのか?
「ほう、流石はアンリミテッド・サバイバー、マクレガーだな…」
この親父も何納得してんだよ
「じゃあ手始めにメディチとだな」
「おう、よろしくな」
「えっ!?えっ!?」
「いいファイトをしようぜ、メディチ。俺が負けたらお前がこれをやるんだ」
「お、おう……」
は!?無理だろ……
でもわざと負けたらこいつブチギレるだろうし………何より、それは俺のプライドが許さない
しかし……ケネディもドラゴンも滅茶苦茶過ぎるだろ。
だが、逆境ほど最高のギャンブルは無い。
腹に決めた。勝たせてもらうぜ。マクレガー